DIARY
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 M氏はローマ市内の2LDKで彼女ともう一人、日本人の若者と3人で暮らしていた。
「ローマの休日」で有名なスペイン階段があるスパーニャまでは地下鉄で約15分のヌミディオクアドラート、という駅の近くでなかなかいいところだ。
俺はそこのリビングにマットレスを敷いて寝かしてもらった。

 2日目の朝、M氏が「会社行く前に役所に用があるからそこの近くのマーケットに連れてってやるよ」と言う。
実は彼も元バックパッカー。世界中どこへ行っても、マーケットがその国を一番はっきり表現していることを知っているのである。俺は喜んで連れてってもらった。
 マーケットに着くと「ちょっと役所行ってくるからここで適当に見てて」と言い残し、M氏はいなくなった。
どの国の市場でも同じだが、建物内には腰ぐらいの高さの棚が所狭しと並び、威勢のいいおじさんおばさんが大声を張り上げている。
野菜、果物、魚介に肉。食の全てが詰まっているのだが、その中でも特に目に付くのはオリーブや真っ赤なトマト、それにチーズなどのこれぞイタリア!と思わせる食材だ。
色とりどりのマーケットを興味深く見ながらふと、「そういえば両替しなければ手元にユーロが無いな」ということに気づいた。そしてふらっとマーケットを出てローマ銀行を探すがなかなか見つからない。そこで前から歩いてきたおっさんに英語で聞いた。・・・通じない。
基本的にイタリア人もイタリア語しか話さない。
仕方が無いので前日M氏から教わった「トイレどこですか?(ドーヴェ、イル、バーニョ)」を応用してみる。「ドーヴェ、ラ、バンカディローマ?」すると指をさし、「おお、あっち。あっち。」と答えた。
言われたとおりに”あっち”へ行って探しても、いっこうに見つからないのでまた別の人に聞く。するとまた「あっち。」と言って指で指し示す。・・・両替は諦めた。正に沢木耕太郎氏の体験そのままだ。
マーケットからかなり離れたところに来てしまったが、そこは俺もバックパッカーのはしくれ。素晴らしい方向感覚でM氏の家に難なくたどり着いた。その約20分後、M氏も到着。俺を散々探し回ったらしい。(そりゃそうだ。)
で、結局M氏は午後から出社することになった。(いいのか?そんなんで?)

 さて、ド平日は当然M氏も仕事があるわけで、その間俺は一人で観光することになる。
コロッセオやスペイン階段、トレビの泉、カラカラ浴場、そしてバチカン市国とローマはそこら中見所だらけで、バックパッカーである俺は一人が苦にならず、毎日観光していた。
しかしながら、あるところはどうしても俺一人では行けない。
それは”うまいピッツェリア”である。
いくらイタリアと言えども観光地の観光客用のピザはそれほどのものでしかない。
が、M氏はさすがに何年もここに住んでるだけあって、地元で口コミによる評判のピッツェリアを知っているのだ。
そして路地が入り組んで、どの通りも似たような風景のローマでは俺のような一見さんは間違いなく迷子になる。
夕方空腹を我慢し、M氏の終業を待ち焦がれ、ここでしか味わえない贅沢を堪能したのであった。

 ある朝、M氏の出勤と共にアパートを出て、バール(BAR)と呼ばれるカフェに立ち寄った。
労働者が目覚まし代わりに苦いエスプレッソを飲みながら出勤前のひと時を過ごす場所だ。
店に入ると正面に注文カウンターがあり、左手には椅子つきのテーブルが2つ、右側には立ち飲み用の小さい円卓が4つほどと窓際にカウンター席。
エスプレッソを頼み、椅子つきのテーブルに着く。
立ち飲み用の円卓では、襟付きのシャツにチノパンで腹の出た労働者風のおっさんとスーツを着た日本で言う、いわゆるサーリーマン風のおっさんがなにやら議論している。
労働者風のおっさんが円卓の上にピンク色の気色悪い新聞を広げている。サッカー専門誌”コリエレ・デロ・スポルト”だ。
日本で出勤前に喫茶店に入ると、前日の疲れが抜けない、死んだ目をしたサラリーマンが口を利くのもダルそうにタバコをふかして座っており、蝋人形館のように静かだ。
しかしこのバールでは朝からサッカーの話で熱くなり、活気がみなぎっている。
東京の喫茶店とローマのバール。180度雰囲気が違う。

 さて、イタリア人の性質だが、あるタバッキでタバコを買い、店員が俺におつりを渡そうとレジから小銭を出した瞬間にレジの横の電話が鳴った。
どうするかと思いきや、店員は俺に渡すつり銭を手に持ったまま電話に出る。(電話出る前にパパッと渡せばいいのに)
そしてそのまま世間話を始める。お釣りは手に持ったまま。
俺は理解もできないのに、イタリア語の世間話を聞かされながら待つことになる。BRAVO!
なんとなくヨーロッパの中でもアジアに近い感じがする。
その後、M氏の同居人の若者とともにナポリ、ポンペイ、サレルノに一泊で行き、ブーツの下半分を堪能したのであった。


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