チューリッヒ空港近くのホテルにチェックインし、この旅最後の晩餐へ。
ホテルの周りはひと気のほとんど無い、とても閑静な住宅街。歩いていてもレストランらしき建物はなかなか見つからない。
と、駅の近くに普通の民家を改装したようなレストランを発見。いかにも家庭料理が出てきそうなとても雰囲気のいいレストランだ。早速入る。
入るとすぐバーカウンターがあり、奥にテーブル席が六つほど。周りにレストランが無いせいか、満席だった。
この店、どうやら夫婦で経営してるらしい。立派な口髭を蓄え、背筋がピンとして、物凄く紳士的な立ち振る舞いの旦那さんと、愛くるしい笑顔が素敵な奥さん。ほんっとに”いかにも”な感じの夫婦だ。
K氏と共に入っていくと、奥さんが気づき、ドイツ語でなんか言ってきた。・・・分からん。
身振りで「飯を食いたい。」と表現すると、「もうすぐ空くからとりあえずカウンターに座ってて。」的なことを言われたので、とりあえず座ってビールを注文。なんとなくというか、癖なのか、店の状態を観察した。
奥の厨房には誰かいるが、ホールは夫婦二人だけでやっている。客の注文を取り、ビールを注ぎ、会計をして、テーブルを片付け、料理を運ぶ。この満席の状態でも全く無駄の無い動きで二人ともテキパキと働き、全く煽られる様子は無かった。そして、客はドイツ語の話せる観光客なのか、地元のスイス人か分からんが、とにかく皆がドイツ語を話している。
そうこうしているうちに席が空き、奥さんに案内された。
英語が通じなかったが、メニューは英語表記のものがあったので俺もK氏もパン、スープ付きのステーキを頼んだ。
この奥さん、ほんとに人が良くてメニューを必死に説明してくれた。ドイツ語だけど。
ほどなくして、パン、スープ、メインという順番で皿が並んだ。
そして今度は料理を持ってくる度になぜか「メルシー」と言ってる。ドイツ語が通じなければフランス語なのか。スイスだけに。
とにかく、今この店の中で言葉が通じず、見た目も東洋人というのは我々だけだ。
そんな我々に気を使ってるのか、ちらちらと不安そうにこちらの様子を伺ってる。その表情は、暖かく息子を見守ってるような感じだった。
俺は目が合うたびに親指を立て「グート、グート。(うまい)」と言った。実際モーレツにうまかった。
すると奥さんはその度に安心したような、なんとも言えない優しい笑顔になる。
店は依然満席状態なのに俺らのところに水を持ってきてくれたり、ビールがからになれば「おかわりはどう?」的なことを言ってくれたりと、とにかく気を使ってくれた。
ところが、一つだけ大きな問題があった。量が多すぎるのだ。日本のファミレスの二人前ぐらいの肉に、てんこ盛りのポテトに、サラダ。これが一人前。
ザグレブを飛び立つ前に軽く食ったし、俺もK氏も腹ペコというほどではなかったのだ。
愛くるしい奥さんの顔を見るたびに二人とも「こりゃ残せねえぞ。」と思うのであった。
だんだん会話が無くなり、ビールも進まず、鬼の形相で必死に食い続け、奥さんと目が合うたびに満面の笑みに変わる。俺ら大魔神か?
それでも味が良かったせいもあって二人とも何とか完食。暗黙の了解で消化するまで全く席を立てなかった。
会計の時に奥さんに「ダンケシェーン。」と言うと「あら、ドイツ語喋れたの?」的な感じで、なん
となく恥ずかしそうにしていた。・・・喋れません!
